蔓草ノート

『鬼に訊け −宮大工 西岡常一の遺言−』
 宮大工西岡常一の名前を初めて目にしたのは、
幸田文の随筆を読んでいたときだったかと思う。

先週末から静岡でも映画『鬼に訊け −宮大工 西岡常一の遺言−』が
上映されるようになり、早速観に行った。
映し出されていたのは、決して揺るがない職人の姿。
努力と経験に基づいたぶれない信念。
後進の大工たちの仕事ぶりを見守る眼差し。

ぶれない仕事をし続けるというのは、大変なことだ。
時代の風潮や権力、財力を握る側の意見、その他諸々と対峙し、
衝突することも少なくないはず。

自分はどうだろう?
たとえ信念があったとしても揺らぎっぱなしだ。
せめて自分の中のぶれ、迷いだけでも断っていきたいものだ。
今になって、改めて、組版やら校正やらの学び直しをしているのも
そういうぶれのなさを保ちたいからかも知れない。

話がとんでしまった。
西岡棟梁が手がけた法隆寺、薬師寺、法輪寺の三重塔、
観に行きたくなりました。
映画では薬師寺がメインだったけれど、
私としては幸田文が夢中になった法輪寺三重塔を観に行きたいな。
| 観たもの | 13:50 | comments(2) | trackbacks(0) |
『僕は、そして僕たちはどう生きるか』
先日、出版されたばかりの梨木香歩『雪と珊瑚と』を読んだので、
その続きで、1年前に読んだ梨木香歩『僕は、そして僕たちはどう生きるか』を再読。
本は一度買ったら手放せず、増殖する一方なので、
単行本で買うのは特定の気に入った作家のものばかりだ。

上記の二冊、内容はもちろん、装丁もいい。 
『雪と珊瑚と』は名久井直子さんのデザイン。 
色合いがやさしくて、 
表紙に使っている紙が通常のハードカバーより若干薄めで、
ページ数多いけど、読んでて疲れないのがいいなと思った。
本の雰囲気とは合っているけど、
いつもの梨木作品と印象が違うと 直感的に思ったのは、
タイトルがゴシックだったからかも知れない。

『僕は、そして僕たちはどう生きるか』は鈴木成一デザイン室。 
この本を1年前に手にして、家で読もうとして、
まずは装丁を眺めていたとき、不覚にも涙がこぼれたのを覚えている。
表紙や背や扉に置かれた文字のバランスが、 
なんというか、絶妙だなと思って。
細めの明朝でくっきりと入ったタイトルが本当に美しいと思えたのだ。 
その当時、私自身、体調を崩して仕事ができずにいて、
そういうことも影響してしているのかも知れないけれど。 
こんな、人の心に食い込むような仕事、
してみたいなと強く感じたのは覚えている。

それはともかく、梨木さんの作品の登場人物たちは
とにかくいろいろなことを丁寧に考える。
日常、流してしまいがちな些細な感情、
ちょっとした違和感だったり、いらいらだったり、かなしみだったり、
それらを流してしまわずに、どうして自分がそういう風に感じたのか、
それは自分にとって何を意味しているのか、丁寧に丁寧に気持ちを辿っていく。

忙しい日常のなかで、そういうことをしていくのはなかなか難しい。
でも、そうやって丁寧に丁寧に自分の感情をケアすることは
実はとっても大切なことなんじゃないかと、実感として思う。
無意識に自分が感じて、無意識に行動していることって、
思いの外、自分の行動を縛っていたりするものだ。
「無意識」に行動を支配されないためにも、
自分の些細な感情を無視しないことはとても大事、とつくづく思う。

両方の作品に「プライド」という言葉が出てきた。
言い換えれば、自分にとって譲れないものということか。
それは時として、その人を支えるものになるのかもしれないし、
意固地にさせるものなのかも知れない。 

そんな言葉がとりとめもなく、浮かんでは消え、浮かんでは消え。
だんだん何がいいたいのか不明瞭になってきつつ、
ゆらりゆらりと思いを巡らす読後感を楽しんでいる。
| 読んだもの | 21:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
ふらりふらり
 15日、16日といくつかの予定があって東京に。
そのうちの一つは、4月開講の文字の学校主催「大熊肇の組版道場」に参加するため。
文字を組むこと、読みやすく、相応しく組むことについては、
これまでも自分なりに意識してきたことですが、あくまで独学。
いろんな場面で迷いが生じることも多いし、他の人はどうしてるんだろうと思うことも。
正解を教えるというよりも、自分なりの組み方を考えようというこの講座に参加することにしました。
ほかの参加者も、印刷、デザインはじめ、いろいろなバックグラウンドを持つ方々。
半年間計6回、毎回課題提出つきの講座の中で、
これまで自分が無意識にやってきたことなど、
いろいろと見えてきそうで楽しみです。

で、諸々の用事の合間を有効にということで、いくつかの展示を見てきました。
一つ目は、三菱一号美術館の「KATAGAMI Style展」。
着物や染織には以前から興味があったので、とっても楽しめました。
伊勢型紙に彫られた図案そのものも精巧で美しく、それだけでも価値を感じますが、
海外に渡った日本の型紙が、各地のデザインに与えた影響など興味深いものです。
ウイリアム・モリスの壁紙やリバティ商会のテキスタイルの数々もあり、
なるほどこういうところにも影響しているのかと感じ入る内容でした。
型紙そのもののデザインも色合いを変えて使うだけで、
ぐっとモダンになったりするのでしょうね。

それから、文字関係の展示を二つ。
大日本タイポ組合と古堅まさひこさんによる「字作字演」(日本科学未来館常設展スペース内)。
いろんな形を組み合わせて文字をつくったり、逆さまに文字を書いてみたり、
体験型の展示が面白かったです。

それから、gggで開催中の「TDC展 2012」へ。
文字そのもののデザイン、文字を使ったデザイン。
文字にまつわる様々な作品、見ていて飽きません。

そんな感じで、ふらりふらりと歩き回り、充実した二日間でございました。
| 見歩き | 11:04 | comments(0) | trackbacks(0) |
『犬が星見た』
文体フェチだと思う。
渇いた身体が水を欲するように、たまらなく言葉を欲するときがある。
輸血をするかのように、気持ちのよい文章を身体に流し込みたいと感じるときがある。
文体の好きな作家は何人かいる。
(内容は面白くて好きだけれど、文体はそれほどでもという作家もいる。)
でも、好きな作家の作品というのは、もう大抵読んでしまっていて、
たまに違う作家のものを読みたくなる。
でも、そういうときに読みたい作品は、誰のでもいいとは限らない。
気持ちのよい文章を、気持ちよく読みたい。
そんなことを考えながら手に取ったのが
武田百合子『犬が星見た』(中公文庫)である。
率直でさばさばした語り口でありつつ、
ご主人の武田泰淳氏とのやりとりの描写などは何だかとてもかわいらしい。
ご主人とその友人のやりとりを横からちょっといたずらっぽい視線で眺めつつ、
自由な感想を述べている百合子さんの間の取り方がすごくいいなあと思った。
読み終わったのがさびしくて、今度は『日々雑記』を買ってきた。
こちらも読むのが楽しみだ。
| 読んだもの | 20:03 | comments(0) | trackbacks(0) |
マンガの字
 3月までのお仕事ということで制作に参加させていただきました『マンがたりSHIZUOKA』(静岡県文化政策課発行)が無事できあがりまして、昨日から電子書籍が無料ダウンロード可能になっております。(http://mangatari.com/)静岡県内に伝わる民話を題材にマンガを制作したもので、なかなかよい仕上がりになったと思います。紙版は見本冊子ということで、限定配布のほか、静岡県内の図書館に設置されるそうです。
この冊子を作るにあたり、初めてまともにマンガの文字組というのを意識しました。少年マンガと少女マンガとでは文字の使い方も違うし、雑誌によってもまた雰囲気が変わる。フキダシに使われるアンチゴチ(仮名=アンチック体、漢字=ゴシック体)をはじめ、強調部分、モノローグなど、一般の組版とは異なるマンガ特有のルールがあるようです。とはいっても、そんな業界内のルールが資料として簡単に手に入るハズも無く(『マンガの文字の組み方』なんて本があったら間違いなく買っていたでしょう)、あれこれマンガを見ては、試行錯誤をし、マンガ作品として違和感のないものができたと思っております。
『タイポグラフィ』(美術出版社)やモリサワの冊子『組版で語る』の中で、『コミックファウスト』の実験的な文字組みの例が取り上げられているのを以前読んでいて、なるほどなぁなどと興味深く思ってはいたのですが、実際自分がマンガの制作に関わってみると、絵の雰囲気や線の太さによって、書体、文字サイズの合う合わないが大きく異なり、面白く思うことの連続でした。その業界の人にとっては当たり前すぎることなのかも知れませんが。
今回私はInDesignで、大量に合成フォントと段落スタイルを設定して制作したのですが、実際、マンガ雑誌の組版がどういう風に行われているのか、非常に気になるところであります。
| お仕事 | 22:26 | comments(0) | trackbacks(0) |
あっという間
気がついたらしばらく更新していませんでした。
それなりに、充実し、面白い仕事もさせていただき、
いくつか書きたいことなどはあったのですが、
何となくタイミングを逃し。
文字のこと、組版のこと、興味は深まるばかりです。
ちょっと落ち着いたら、ちゃんと更新します。
| あれこれ | 12:50 | comments(0) | trackbacks(0) |
きげんよくいようと思う
新年おめでとうございます。
早くも新年明けて4日目でございます。
「昨年は激動の一年だった」
多くの人が、年賀状やSNSなどで、そう書いています。
震災もありましたし、人生観が変わったという人も多いようです。

私にとっても、決して他人ごとではありません。
積み重ねてきたムリから、不調を来たし、
休養を迫られる期間がありました。
ちょうど、地震が起こったころのことです。
働き方を変えなければ!という思いは
前々からあったものの動き出せずにいるうちに
身体の方が先に悲鳴を上げました。
仕事自体は好きだったから、働けない事態に陥ったことが
本当に悔しかったし、悲しかった。
たくさん泣いたし、たくさんの人に迷惑もかけた。

そんな時間を経て、今は好きな仕事が楽しくできている。
時間と気持ちに余裕ができたおかげで、いろいろと勉強する機会もできた。
とても幸せなことだと思います。
先のことはまだまだわからないけれど、
自分のやりたいことを手放さずにいようと思います。

年の初めに思うことは、
流れに逆らわずに、自由に伸びやかに、
きげんよくいること。
もうたくさん泣いたから、今年は笑って過ごしたいと思います。
「笑う門には福来たる」といいますしね。

| あれこれ | 21:48 | comments(0) | trackbacks(0) |
学ぶ
更新しないでいるうちに、ひと月。
何となく書き込めないでいるのは、まだこのブログでの自分のスタンスが
定められていないせいかもしれません。
「読者を想定すること」と「自分の立ち位置を確定すること」、
どんな文章でも書くためにはその二つが必要だと感じています。

たとえ自分のブログといえども、なんとなくふわふわと書くというのは、
どうも居心地の悪いものです。
(って、こんな風に書いたら、つまらないかも知れませんが)
といいつつ、ふわふわ、でもいいかと思ったりもします。

先日、文字の学校主催の『実践!ブックデザイン塾』を受講しました。
10/15・16の二日間、それぞれ講師の先生によるブックデザインにまつわる知識の伝授は
とても具体的な内容で、ためになるものでした。
と同時に、仕事をしていくうえでの気持ちが励まされたような気がしました。
よい刺激になりました。
打ち上げにも参加して、先生方や他の受講生との交流が持てたのもよかったです。
資料としてもらえた書籍用紙の紙見本がうれしい重みでした。

10/22は、紅茶販売を行っているteteriaさんの紅茶レッスン。
以前から、ひそかにteteriaさんのファンだったので、
美味しい紅茶の入れ方を伝授してもらえてうれしかったです。
ネパールのシャングリラ、インドのダージリン、アッサム、ニルギリ、
それからスリランカのディンブラの紅茶を試飲。
紅茶の好みはそれぞれあるでしょうが、私はアッサムの力強さが好きです。

このところ、貪欲にいろいろと学ぶことしています。
きっと今しかできないことでもあると思うから。
知識や技術の補強は、自分のなかで曖昧になっていた部分をクリアにしてくれる
と同時にあしたの自分のチカラになってくれるはず。
| あれこれ | 17:54 | comments(0) | trackbacks(0) |
Zapf展
土曜日、西麻布のギャラリー ル・ベインで開催中のZapf展に行ってきました。
ヘルマン・ツァップさん、グドルン・ツァップさんご夫妻の
カリグラフィー作品の展示。
26文字のアルファベットの組み合わせが、
どうしてこんなに美しく感じるんだろう?って思ってしまうくらい
すてきな作品の数々。
じっと見入ってしまいました。
文字を書くことをしてみたいという気持ちがますます強くなりました。
| 見歩き | 17:52 | comments(0) | trackbacks(0) |
文字に夢中
文字を扱う仕事ゆえ、以前から文字や言葉に対する関心はあったのですが、
この1〜2年、その関心がいっそう強くなっています。
文字や書体に関する書籍も、この数年増えているように感じますし、
ツイッターやその他インターネットなどを通じて情報を得やすくなったことも
影響しているのではないかと思います。
アンテナを張っていると、文字関係のイベントなども沢山あるようで、
先週土曜、昨日と立て続けに文字関係のトークイベントを聞きにいってきました。

先週は、『タイポグラフィの基礎』の発行記念セミナー
「タイポグラフィの世界」の最終回、「フォントの舞台裏」へ。
イワタ、字游工房、モリサワ、アドビシステムズ、
各社のタイプエンジニアの方々によるフォント開発のプロセスに関するお話。
フォントを使う側からしたら、聞き慣れない言葉も多く、
難しいと感じる箇所も多々ありましたが、
普段なかなか聞けないことばかり、とても興味深い内容でした。

昨日は、青山ブックセンター本店で開催された「Type Talks 第六回」。
カリグラフィを学んでいる友人に誘ってもらいました。
テーマは、「Zapf展の見どころ紹介」。
9/13〜25にギャラリー ル・ベインで開催される「Zapf展」の内容や
開催に至るまでの経緯、ヘルマン・ツァップさん、グドルン・ツァップさん夫妻の
カリグラフィー作品の特徴、魅力などが紹介されました。
ヘルマン・ツアップさんは、OptimaやPalatinoなどの書体をデザインされた方。
スクリーンに映し出された作品がとっても素敵で、
会場に足を運ばねば!と思っています。

それから、もう一つ。
昨日はType Talksにいく前に、ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションで
「浜口陽三・石川九楊二人展」を観てきました。
浜口陽三さんの銅版画は、繊細なタッチと深みのある色合いが印象的。
石川九楊さんの「新・源氏物語書巻五十五帖」はここまでかというくらい
崩した文字がこれまた繊細かつ大胆な筆遣いで書かれていて、とっても美しかった。

ヘルマン・ツァップさんの職人的な感覚を思わせる文字、
グルドンさんのあたたかみの感じられる文字、
石川九楊さんの源氏物語の原文が読み取れないくらいに崩した文字。
それぞれに味わいと魅力があって、
書き文字の世界の奥深さを感じたのでした。

綺麗な文字にあこがれるばかりの私の文字は、とても人にはお見せできませんが、
日常のメモ書き程度でも、もう少し丁寧に書きたいものだと思います。
| 見歩き | 09:57 | comments(0) | trackbacks(0) |
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